第7回読書会「マチネの終わりに」報告(個人的感想つき)

7回ヒカクテキ読書会、「マチネの終わりに」(平野啓一郎)
1216日午後7時半より

 

「マチネの終わりに」は、平野啓一郎氏を敬愛するHさんの推し小説。

今回は、みなさんの感想にも随時解説を加えながらHさんが進行役をやって下さいました。

 

Hさん

私は平野啓一郎さんが大好きで、平野さん主催の読書会にも参加したりしていて、恋をしていると言ったら言い過ぎかもしれないですけれど、平野さんに恋をしている♡…そのくらいに大好きです。

まず最初に、作者について簡単に説明します。

平野啓一郎、1975年生まれ。ロスジェネ世代。この世代は、就職氷河期の世代でした。

そんな世代的な影響もあり、平野さんは「新自由主義や自己責任論に反対する立場」をとっており、「人はたまたま今の環境にあるのである」「人は社会環境によって変わる」と言っています。

家庭環境としては、母子家庭で、父親は平野さんが1歳の時に、36歳の若さで亡くなります。お昼ご飯を食べて、そのまま突然死してしまいました。

祖父は歯医者で、割と裕福に不自由なく育ったと本人も言っています。北九州市出身で、高校は東筑高校。

京大在学中にデビュー作「日蝕」(1998年)で芥川賞を受賞(1999年)、これは40万部を売り上げました。これについても、本人は「運が良かった」という言い方をしています。

その後、パリに一年住み、その後は東京に引っ越して、本人は「都会が好き」と言っています。

「マチネの終わりに」(2016年)は、もともとは新聞連載の形式をとっていました。そのため、より多くの人に喜ばれる小説を書くことを目指したそうです。そして、50万部近くを売り上げ、平野さんの作品の中では、最も売れた小説となりました。

そもそも、平野さんが小説を書こうと思った動機は、三島由紀夫の「金閣寺」を読んで衝撃を受けたことと、父親が急死した体験から「人はある日突然死ぬかもしれないのに、やりたいことをやらなくて良いのか」と強く思ったことにあるそうです。

 

それでは、みなさんそれぞれに感想をお願いします。

 

Kさん

上品な印象があって、自分は面白く読んだ。
普段自分が読まないような小説で、淡々としていたらきっと途中でやめてしまったと思う。
文末の主要参考文献の数を見ても、これだけの下調べの末に書いたものだけあって、完成度の高さを感じた。
会話や文章が上質で、とっつきにくいわけではなく、品位を保った上での読みやすさがある。
大人の恋愛で、「わきまえてる感」がある。

 

Hさん

「わきまえてる」いい言葉です!文章に品があるというのも、その通り!

平野さんの小説は、それぞれの作品で文体も違っています。

また、これはただ甘いだけの恋愛小説ではない。40代の恋愛は、出産や結婚を意識した恋愛で、若者のように相手に追いすがったりしない、そういう「若者と比べてわきまえ感のある恋愛」を描いています。

 

Nさん

一昨日読み終わった。ドキドキしながら読んだら、最後は悲恋で、がっかりした。

自分とは人種が違う。自分なら追いかけていく。結婚しましたというメールがきて、なぜそのままにしておくのか?自分はハッピーエンドでないと嫌なので、恋愛は今世で結ばれなければ意味がないと思う。主人公二人が再会したところで終わるが、きっと二人は結ばれない。子供を言い訳にして、結ばれないんだろうな(付き合ったりしない)と思う。

文章は美しい。音楽の美しさもあり、文化的。

多和田葉子さんの小説を思い出した。

 

Hさん

恋というのは、燃えあがってなりふりかまわないもの。

愛と恋とは違う。「愛という曲芸」「宇宙船の隘路」という表現が興味深い。愛とはそれほどに困難なもの。

「この人との関係はなんだったのかな?」そう心に残っている人が誰にでもいるのではないだろうか。

 

Siさん

読んで思ったのは、筋書きはベタなメロドラマで、昔の映画「君の名は」を思い出した。あれもすれ違いの恋愛のお話だった。だけど、今の時代は、登場人物のそれぞれに、色々なバックボーンがある。正直に言えば、蒔野と洋子の恋愛には興味がない。どちらかと言えば、最近ピアノを再開したこともあって、音楽の部分に興味があって、バッハのギター曲を流しながら読んでみたりした。そういう風に、色々な楽しみ方が出来る小説だと思う。40代のクライシスも興味深かった。また小説を読んでみようかなと思った。

 

Hさん

メロドラマでは、昔は女が待った。今は、洋子があちこちに行って、男が待っている。

そこが違うところじゃないかな。

とにかく、「ページをめくる手が止まらない」じゃなくて「ページをめくる手が止まってしまう」ような、読み終わりたくないと思わせる小説を書きたいと平野さんは言っています。

楽器に関しては、何にするか迷った結果、ギターにしたそうです。

私は、平野さんの小説では「マチネの終わりに」を最初に読みましたが、「小説ってこんなに面白かったんだ!」と夢中になりました。

 

Saさん

久しぶりに読んだ現代小説でしたが、私は面白く読みました。

自分と近づけて読むところがあるんだけど、自分は洋子タイプだと思いました。
早苗は、どんなことでもやっちゃう。
洋子の「自分の正義を貫く」ところは、自分もドキッとしました。
母親が長崎で、被爆二世ということも同じで、共感するところもあります。

「過去は変えられる」という言葉が印象的でした。

 

Hさん

平野さんは「自作解題」ということをやっていて、自分の作品を自分で解説しています。これは、三島由紀夫もやっていたことです。

平野さんの小説は、太いストーリーの下に、レイヤ―状態に様々なテーマが構成されています。

そして、「小説は面白ければこそ」で、日常の淡々としたものはダメだと。

小説の登場人物は、等身大ではなく尊敬できる人。人は必ずしも等身大な人に共感するのではなく、尊敬できる人に共感するのではないかと言っています。

また、多くの小説に「序」を書いているのは、18世紀の小説には「序」が多いことからそうしているそうです。

 

Nam(私です)

前回読んだ時は、「序」の2ページめで断念した。今回も「序」を読んでいるととても嫌な気持ちになった。

 

Hさん

「序」について言うと思った。平野さんは「序」について、18世紀の小説に「序」が多いことからそうしているということと、「読者がスムーズに本文に入れるように『序』を書いている」と言っています。どこが嫌なのかな?

 

Nam

わざわざこんなものを最初によませられたくないというか…。

 

Hさん

それは私も分かります。

 

Nam

でも、そういう話じゃないんだよ!(自分で言って、自分で否定、酷い(笑))
この「序」を読むと、思うことがあって…。
この「序」は、「すべてを書き終えた後からここに添えられたものである」って書いてあるよね?
「最後までどうしても理解できなかった点もある」「書くべきだと感じてからである」って。
つまり、このモデルの二人の片方に、何かが起きて、ひょっとしたらどちらかが亡くなってしまったとか、いずれにしても、ここに描かれている二人の関係は過去のものになってしまった、と、書いてあるんだと思うんだけど。

 

Hさん

……?



(あれ?私、外した…?(笑))

 

Hさんだけでなく、他のみんなにも全く共感を得られなかったので(でも、そうなんじゃないかと思えてならなかったので)この部分については、後日掲示板に説明させてもらいました。

HさんとかNさんのドンドンふくらむ話が面白いので、良かったらこちらへ↓

 

■第7回ヒカクテキ読書会「マチネの終わりに 序」超個人的考察

ヒカクテキ読書会BBS (fc2.com)

 

Nam

あと、実は早苗とリチャードがベストカップルなんじゃないかと思う。
リチャードは、「君が正しいことをしているから、(中略)君のために尽くしたんじゃない。君を愛してるからだ。僕は君にもそうあって欲しい」って言うし、早苗は「正しく生きることが、わたしの人生の目的じゃないんです。わたしの人生の目的は、夫なんです」って言ってる。
二人の希望は同じ。ベストカップル。出会わないけど。

 

(あれ?また外した…?(笑))

 

ここからも、色々言ったけど、私の発言はたいしたことも言ってないから割愛します。

「過去は変えられる。未来は常に過去を変えている」の話とか、
「洋子のPTSD
を知って思い出が変質していく蒔野(過去は変えられるとか言ってたけど、過去が変わっちゃった)」とか、
「かわいそうなリチャード」の話とか、
「平野さんが使っている古い語彙の具体的指摘」とか、
「平野さんの文章表現や比喩が冴えわたっていると思う具体的な部分の指摘」とか、
「早苗は洋子にかなうはずない。洋子恐ろしい女、の具体的発言の指摘」とか、
「蒔野の自分の心をまるめこむ卑怯テクニック」とか、
「蒔野の残酷発言」とかです。

 

 

ここで、Hさんが再び場の進行を。

 

Hさん

ここで、テーマにそって話すのはどうですか?例えば、洋子と早苗、どっちが好きとか。恋人にならどっち?結婚するならどっち?Kさんどうですか?

 

Kさん

どっちも早苗だな。っていうか、たいして悪いことしたわけじゃないから、気にしなくていいし、むしろやったとわざわざ言う必要もない。奪いたいなら、そのくらいやっても全然いい!!!

 

ここで、声を大にしたKさんから、意外な肉食発言!

 

Saさん

早苗のことは、そんなに悪い人間には描かれてないと思う。メール送った後も、悩んでるし。

 

Nam

早苗可愛いよね?メール送った後で「どんな人でも死ぬまでには罪を犯すはず、自分の場合、許される罪の重さの制限に対して、まだまだ余裕があるはず」とか言っちゃって。

 

Kさん

うんうん(可愛い)…あれ?じゃあ自分、そのうち早苗みたいな人と結婚!?

 

今更とまどう、Kさんが面白かったです。

そして、ここからは、私的感想込みのまとめ。

Hさん

平野さんは、「比喩表現の天才」と呼ばれています。

 

ちょっと得意げにHさんが教えてくれた通り、沢山出てくる比喩表現は的確で、言葉で表現することの難しいイメージをうまく具体化して伝えていると感じました。

 

私は蒔野と洋子の恋愛には全く興味が無いので、二人が魅かれあったことにも全く共感できなかったです。
でも、昔
HさんNamさんは恋が分かっていない。恋とは頭で考えてするものじゃなく、雷に撃たれるようにいきなり落ちるもの」と指摘されたので、「ああ、二人は落ちたんだな」とただそのまま受け止めて読みました。

 

その他に思うのは、「音楽小説としてどうなのか?」ということです。
音楽マンガもそうなのですが、紙面から音楽が聞こえてくるかどうか?ということがひとつの判断ポイントになると思います。

この小説の中には具体的な曲名が出てくるので、もちろんそれを聞きながら読むという楽しみ方もあるのですが、その曲を知らなくても、文章の表現だけで読者の頭の中に「音楽が鳴り響くのかどうか(具体的な音でなくても)」
もしも、読者がそんな体験をしたのだったら、それは音楽小説として成功している
のではないでしょうか。

とか思います。

最後に、「マルタとマリアの話」については、もっと深堀りしたい気がします。ここも、私の捉え方は、みんなの共感を得られませんでしたが(ゆっくり説明もできなかったし)、ちょっと思うところありです。

とにかく、今回はHさんの平野啓一郎さんへの愛があふれた読書会で、いつになく饒舌なHさんが生き生きとしていて、それが一番印象的でした。

推しがあるっていいですね?

※追記

私の中の「マチネの終わりに、流行語大賞!」

偽メールを洋子に送って蒔野との間を引き裂いたことがバレた早苗に、「正しい人」「美しい人(容姿ではなく汚れようとしないそのあり方が)」である洋子が言ったこの言葉。

「それで、あなたは今、幸せなの?」

「あなたの幸せを大事にしなさい」

(怖い怖い…罪人を見るキリストやマリアみたいな目で早苗を見て、「貴方の罪を許します」と言う洋子…こんな女には早苗は叶うわけない。でもHさんは「洋子はできた人」と受け止めていましたから、感想は人それぞれ)

 

<文責 ナンブ>

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