第11回ヒカクテキ読書会「人間失格」報告(長すぎ)

■第11回ヒカクテキ読書会「人間失格」(太宰治)

4月14日・日曜日 19時半~21時半

 

いつになく、「さあ~! やりますか!」と声を合わせて開始。

今夜は、一体どうなりますことやら。

 

Haさん

読みましたぁ~!二巡?いや、一巡半した。

思ったのは、時系列……?年譜と合わせて読みました。

死んじゃった後に発表されている。そうなると、死んだことはきっとニュースになったはずだから、出版されたらみんな読みたがって、これは売れたと思う。

思い出したのは、漱石の「こころ」の先生の文を思い出したかな。あれは『遺書』として書かれていたけど、これはその「実写版」。

この人ヤバくない?と思って読んでたら、案の定死んだ。命をはって書いたというか、止めなきゃとみんな思ったけど、結局死んでしまって、リアルすぎて怖かった。

太宰も東大で、東大出身者はみんな病む。N先生ごめんなさい(笑)。

 

Kさん

何で東大でると……?頭が良いと病むのかな?

 

Na(私です)

本に付箋がいっぱいついてるけど、とにかく、どこをとっても面白い!

詳しいことは後にして、ひとつだけ。

女が「何か面白い本を貸して」と言った時、主人公は「吾輩は猫である」を貸す。

前に同じ太宰の「畜犬談」をやった時に、滑稽な文体がどこか漱石に似ているんじゃないかと、漱石の「カーライル博物館」を比較に持って行ったけど、今回、この話の中で「面白い本」=「吾猫」って来たとこで、「いえ~い!やっぱり太宰は漱石好きなんじゃん!」って思った。

 

Njさん

僕も、どこをとっても面白いと思った。

思ったことが2つくらいあって……。

一つめは、「人間失格」というタイトルに惹かれる。

自分も高校の時に、タイトルを見て、「これは大変な書物なんだろう。きっと自分が裁かれる」と思って読んだけど、記憶が無いんだけど、たぶん違ったんだろう。

2つめは、薬物中毒の手記としての興味。

アルコール依存。女性依存。モルヒネが、薬局で売っていて、それが買えることに驚き。

(今は)病院ではモルヒネの管理は厳しくて、安易に持ち出せないようになっている。

「モルヒネがあるから仕事がうまくいく」とか言っちゃって、完全に中毒。

病院に入って、回復はしていくんだけど…。

太宰も依存症で、鬱的傾向があったのか。そういう意味でも興味深かった。

モルヒネの話なんだけど、今は癌患者の痛み止めに使ったりするんだけど、その時は量の制限がないらしいんだよね。

 

Kさん

お酒よりも体の害にならないのかな?

 

Njさん

ヒロポンとか、覚醒剤みたいなものなんだけど、戦後に戦場から帰ってきた人が使ってたとかいうことがあったんだよね。

 

Na

ヒロポンは、特攻隊に使ってたんだよね。

使って、怖がらなくさせて特攻させてた。

 

Hさん

私は、そんなに長くないし、スイスイ読んで、最初の3枚の写真のところで(こんな話だったなと)思い出した。

この人、最後はどうなるのかな?と興味深く読んだ。

でも、とにかく、「もてるなぁ~!」

当時はこういう人がもてたのか?

相当見目麗しいらしいけど、お金も無く、ヒモ同然で、飛び出したらすぐに次の女ができる。

最後のあとがきでは、バーのマダムが「葉ちゃんは、とても素直で、よく気がきいて、あれでお酒さえ飲まなければ、いいえ、飲んでも、……神様みたいないい子でした」と言う。

なぜに、こんなに……?もてるなぁ~。

 

Kさん

そうなんですよねぇ~。

全然詳しくないんですけど、文豪はもてたのか?

 

Haさん

鴎外はもてた!「舞姫」でもドイツで女の人ができて、日本まで追いかけてきた。

 

Saさん

私は、嵌まったら怖いなと10代の頃思った。心酔してしまったらどうしようって。だから避けてた。

今回は、冷静に面白く読めました。

葉ちゃんは、バーのマダムが言ったことが全てという気がする。

心中も、自らすすんでしたわけじゃない。

きっと太宰もそうなのでは?何度も心中して、最後は本当に死んでしまった。

道化を演じていると書いてあるけど、子供は無邪気じゃないと思う。無邪気でいられた子供は幸せ。

 

Kさん

大人はそう思いたいけれども、自分が子供の頃にどうだったかと考えると……。

 

僕の感想ですけど、初めて読んだんですけど、このタイミングで読めて良かった。

最後のところで「27歳になります。40以上に見られます」ってところで、僕よりも年下だって分かって、そんなに若かったのかとインパクトがあった。

もしも中学で読んでいたら、歪みそう!変なことを覚えそう!

結局、「人間失格」というタイトルが、失格した方が幸せ?なのかな~と。人間の中では生きるのが大変。

人間失格でも、本人が幸せならいいかっ!

 

Haさん

「あとがき」を読んで、終わりかと思ったらまだ「あとがき」があって、「あとがき」だから「解説」みたいなものかと思ったら、まだ話の続きでびっくりしたんですけど?

 

Na

この話は、「はしがき」「第一の手記」「第二の手記」「第三の手記」「あとがき」ってなってて……。

バーのマダムから3枚のしゃしんと手記を手渡された作家が、写真に対する印象を書いたのが「はしがき」、「これは手を入れずにそのままの方がいいだろう」と手記をそのまま載せたのが手記3つ、その経緯を明らかにしたのが「あとがき」。

だから、作者が2人いるという「体裁」になっているんじゃないかな。

 

Njさん

「入子(いれこ)」になってるっていうかね。
本のページの端に題名が書いてあるけど、「あとがき」のところにも「人間失格」って書いてるよね。

 

Haさん

そういう構成か。

 

Kさん

「世間というのは君」って、言葉がありますよね?

 

Na

「世間は個人」ってね。今まで正体が掴めなくて漠然と恐れていた世間が、実は個人じゃないかと気が付いて、ちょっと楽になるんだよね。

 

Kさん

あれで楽になって、その分、押さえつけられていたタガが外れたんじゃないかと。(加速度的に酒に溺れていく)

非合法はいごこちがいい、合法は恐ろしい。

 

Na

「人間失格」っていう題名なんだけど、これどういう意味だと思う?

 

Kさん

自分でも薄々そうだと分かっている。人からはそう見られないように頑張っていたけれども。

 

Njさん

僕は別の解釈。彼は自分のことを「人間失格」とは思ってなかったんじゃないかな。

 

Na

普通だったらさあ……この男の話をずっと読んで来て、男が堕ちていく様を「人間失格」って言ってるのかと思うんだろうけど。
実は、「人間失格」って言葉は、最後の方で「脳病院」に入れられた時に初めてでてくるんだよね。

自分は狂人ではない、ないけれども、脳病院に入れられたことで、「狂人、廃人という刻印を額に打たれることだろう」「人間、失格。もはや自分は、完全に、人間でなくなりました」って。

「人間失格」っていう言葉は……なんだろうな……皮肉?

 

Hさん

私は、タイトルが違うものだったら、この男の事を「人間失格」とまでは思わない。

 

Kさん

人間失格なのかな?

人間の俺、世間から外れた……。

 

Haさん

潔癖で、中学生の子供みたいで、扱い難くて……。

 

Hさん

たまたまなんだけど、ドフトフスキーの『白痴』を読んでいて、似てなくもないなあ……太宰が読んでいたんじゃないかなと思いました。内面を掘り下げて書いている。「人間失格」で「神様みたいないい子でした」とあるけど、『白痴』の主人公も、これは翻訳者の人が言っていることなんだけど、ドフトエフスキーは、「とても美しい人間を書こうとしていた」と。

ムイシュキン公爵は、誰に対しても天使のような対応をする。傍から見ていたら歯がゆいくらいに、良い態度。

葉ちゃんは、女性に対しても本音を言わずに、おどけている。誰に対してもおどけてしまう、本音を言わない。受動的で流されるままに、そういうところがムイシュキン公爵と似ている。

 

Haさん

奥さんがレイプされるところ。

純真に対して、それが犯されることが、彼には堪えられなかったんじゃないかな。

 

Kさん

彼がどうして女にもてたのか……それやります?

 

Hさん

どう?なんであんなに彼はもてたのか……。

 

Na

だって、あれはもてるでしょ!

 

Hさん

じゃあ、どう?もしも自分だったら、好きになる?

 

Na

※ここから彼のどこがどうなのか、詳しく話しましたが、それは最後にまとめます。

 

Saさん

「人間失格」は映画になってるよね。生田斗真主演。

 

Na

小栗旬のは?

 

Saさん

あっちは、どちらかというと太宰のことを描いた映画。

 

みんな

生田斗真かあ……。

 

※ここから、もしも他に選ぶなら、主役は誰がいいかの話に。

 綾野剛、長谷川博己の名前があがる。なるほど演技うまい!

 私は、松下洸平を推しておきます。

でも、彼だと地味過ぎて客は呼べなそう(笑)。

 

Haさん

主人公が友人と言葉遊びをするところ、あれ、絶対に自分も友だちと絶対やろうと思った。

黒のアント、白のアントって、フランス語っぽいと思ったら、太宰は仏文出身!

あれって、仲間内で同じ感性をもってるかどうかを調べて、もって無い人をばかにするというやつ。

 

Ha

罪の対義語は、法律って言ったら。

 

Na

それは違うだろう!って。

 

Ha

罪の対義語は……罰。

罪と罰……ドフトエフスキー!ってでてくる。

 

Hさん

ああ!ドフトエフスキー!

 

みんな

これは、読んでるね!太宰!(笑)

 

Na
ごめん、話もどしていい?

「人間失格」って言葉が「皮肉」なんじゃないか、っていう話なんだけど……。

 

脳病院に連れていかれて、ヨシ子が差し出したモルヒネを「いらない」って拒むでしょ?

「すすめられて、それを拒否したのは、自分のそれまでの生涯において、その時ただ一度」って書いてあるんだよね。

「自分の不幸は、拒否の能力のない者の不幸」だって。

でも、あの時、あんなに中毒だったモルヒネを「自然に拒否」して、「すでに中毒ではなくなっていたのではないでしょうか」と彼は思うんだけど、そこで脳病院に入れられて鍵をかけて閉じ込められてしまう。

 

狂人だから入れられるんじゃなくて、入れられたから狂人となった。

「狂人、いや、廃人という刻印を額に打たれる」

「人間、失格。もはや、自分は完全に、人間ではなくなりました。」

 

「神に問う、無抵抗は罪なりや?」って彼は思う。

彼にとって、そうなったのは皮肉ななりゆき。

「人間失格」には皮肉な意味合いがあるんじゃないのかなあ。

 

Hさん

彼は、どうすれば幸せになったのかな?

 

Kさん

嫌われる勇気があれば良かったのかな。彼は、自己評価が低いですよね。

 

Na

幸せって、どういうものを言ってるの?別に、彼は不幸じゃないんじゃない?

 

最後の最後、廃屋みたいな家に一人で隔離されて、60歳くらいの醜い老婆の女中をつけられて、しかも、その女中に変な犯され方をして。

なのに、この男ときたら、その女中と夫婦喧嘩みたいなことをして、暮らしている。
睡眠薬を買いに行かせたら、違う薬を買ってきて、知らずに飲んだら酷い下痢をしちゃう(笑)。

「これは、お前、カルモチンじゃない。ヘノモチン、という」

と言って、あんまり喜劇みたいだからうっかり笑い出してしまう。

 
「いまは自分には、幸福も不幸もありません。ただ、いっさいは過ぎてゆきます」

 ここまできて、彼は世間と向き合う恐怖から楽になったんだよね。

 

人の人生にはさ?幸福も不幸もないんじゃないの?
誰にも、そんなことは分からないし、決められないんじゃない?

 

Hさん

じゃあ、なぜ彼はこんな風になってしまったのかな?

 

Na

ひとつには、バーのマダムが言ったように「父親が悪かった」んだろうね。

それと、もうひとつは、彼は幼少期に「性的暴行」を受けてるんだよね。

 

Njさん

確かに、はっきりとは書かれていないけど、このお父さんはかなり厳しいかんじがする。

Na

結局、父親は彼を切り捨てるよね。長男も父親のひな型だし。

 

Nj

お兄さんも、怖いよね。

 

Na

子供はさ、愛されたいんだよ。どんな親でも、虐待されても、親は親なんだよ。優しい笑顔を向けて欲しいし、そうしてもらって甘えて抱き着きたいんだよ。

でも、彼はそうじゃなかった。最初に親とまともな人間関係を結べなかったし、付き合い方を教えてもらえなかったんだから、人間とうまく付き合えるようになる訳がないんだよ。

 

Hさん

義理の娘に「本当のお父ちゃんが欲しいの」って言われるよね?

 

みんな

あ~……(涙)あれ、つらい。

 

Na

これ、いい話なところもあるんだよ。

 シズ子と子供がさ、部屋の中でウサギを放してきゃっきゃしてるとこ。

主人公の帰りを待って楽しそうにしている。

「お父ちゃんはびっくりするわね」

とか言いながら。

 

主人公は、その光景を覗き見て、「自分はその幸福を滅茶苦茶にしてしまう」といって、居なくなるんだよね。

そこには、幸福があったし、主人公は二人を愛していたんだよね。

 

Saさん

幸福から、自分で逃げちゃうんだよね。

 

Na

もうね、不憫。彼は本当に不憫。

 

Hさん

不憫だよねえ。

 

Na

年齢もあるのかもしれない。27歳。

もっと歳を取ったら、そして、例えば誰かと結婚して、子供が生まれたりしたら、変われたのかもしれないけど。

 

Saさん

でも、でてくる女の人たちは、みんな彼のことが好きだし。悪い人はでてこないよね?

 

みんな

堀木は悪い奴!(笑)

 

Saさん

太宰もね、何度も女の人と心中しちゃうけど、女たらしというか、そんなに悪いひとじゃない気がする。

 

Na

私も、なんかさ……「女がそんなに言うなら、一緒に死んでやろうかな」みたいになっちゃう人なんじゃないかと思う。

 

葉ちゃん(主人公)のことをさ、マダムが言うじゃない?

「神様みたいないい子でした」って。

これって、結局太宰が書いてるんだけどさ。

 

……これを言うと、またHさんに「分人主義」って言われちゃうかもしれないけど、私は、葉ちゃんが、色々あったダメな自分だけど、本質というか、根っこのところには、そういう自分もいるんだよ……って思っているし、「いい子」って言われたかったんじゃないかと思う。

ほんと、不憫としかいいようがない。父親が悪かったんだよ。

 

Hさん

そこにもどってきちゃうんだね。

 

Na

ところで、言葉の話なんだけど、可愛いところいっぱいあるよね?

 

Hさん

ノンキなトウさん、セッカチピンチャン、キンタさんとオタさん。

 

Na

お変人、お茶目さん、ポンポン蒸気。

五つの女児と二人、おとなしくお留守番!可愛い。

 

ユーモラスなところも、いっぱいあるんだよね。
自殺幇助で警察に捕まってる時、咳がでてハンカチで口を押えて、そのハンカチに血がついているのを見た署長に「からだを丈夫にしなけりゃいかん」とか親身になって言われて、伏目になって殊勝に

「はい」とか言ってるんだけど、その血は『耳の下のおできをいじってて出た血だった』!(笑)

 

しかも、懲りずにまたその手を使おうとおおげさに咳をしてみせたら、美貌の検事に見抜かれて、恥ずかしさに「冷汗三斗」!きりきり舞いをしたくなる。

三斗って(笑)

 

Njくん

30リットルだっけ?

 

Na

この本って、人それぞれの読み方があるとは思うんだけど、世間と相いれない辛さとか、落ちていく男の悲劇とか、そういう風に読まれることも多いんだろうけど。

 これって、「壮大なモテ自慢」って読めなくもないよね?(笑)

ユーモラスだし。結構笑った。

 

Hさん

確かに、結構笑ったかも。

 

Na

ま、とにかく面白いよね?

 

Kさん

面白かったです。メンヘラの話、メンヘラな太宰が書いた。

 

みんな

面白かった。

 

※「人間失格」、面白いで終わって良かったです。

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 ここから私の感想、というか、前出の「なぜ葉ちゃんはもてるのか」についてです。

 「彼は女を下に見ている」という意見もいただいて、それもそうなのですが、それは時代的なことも大きくて。

 ジェンダーの問題に日本で世間が敏感になったのは、実は、たったここ数年で、しかもまだ古い価値観は色濃く残っている。いや、まだそちらの方が多数かもしれない。

 

私の中では、「男女の関係性について」の古い価値観への強い嫌悪と、「日常や、映画や歌詞や小説やマンガなどで」長い時間触れてきたそれを無意識に受け入れてしまう気持ちがないまぜに存在している。

 だから、私が「葉ちゃんがもてるのは当然」と思う部分は、世代が下向きに離れている人にとっては、反発を感じさせるものも多いかもしれないです。

 

でもね?

実のところ、今でもかなり通用しちゃうと思う。ある種の女性たちには。

 

葉ちゃんは、まず幼少期から並々ならぬ「女の観察者」です。

そして、手痛い失敗を繰り返しながら、難解な女との付き合いを多数の女を相手に体得していきます。

そして、もともとの「道化」の技を磨いて、女を自由自在に大笑いさせることが出来るようになります。

 

観察の眼の確かさは、ひやりとする程です。

 

「妹娘のセッちゃんは、その友だちまで自分の部屋に連れてきて、自分がれいによって公平に皆を笑わせ、友だちが帰ると、セッちゃんは、必ずその友だちの悪口を言うのでした。あのひとは不良少女だから、気をつけるように、ときまって言うのでした。」

 

なんでこんなこと知ってるの~!?

やるやる、こういうことやる女いるいる!!!(笑)

 

それから、ある夜、布団に入って本を読んでいると、下宿の姐娘が部屋に入ってくる。

そして、激しく泣きながらこうかき口説く。

 

「あたしを助けてくれるのだわね。そうだわね。こんな家、一緒に出てしまったほうがいいのだわ。助けてね。助けて」

 

ここで彼がすごいのは、彼女を言葉でなだめようと一切しないこと。

布団から起きだして、机の上の柿をむいて、一切れ手渡す。

 

彼女も泣きながら柿を食べ(食べるんだ?)「何か面白い本はない?」と聞く。

そこで、彼が選ぶのが「吾輩は猫である」だというところ、絶妙なセレクト。

 

『女は、どんな気持ちで生きているのかを考える事は、自分にとって、蚯蚓の思いをさぐるよりも、ややこしく、わずらわしく、薄気味の悪いものに感じられていました。』

 

蚯蚓よりも!?(笑)

 

そして、彼は幼少期よりこんな極意を体得していた。

 

『女があんな急に泣き出したりした場合は、何か甘いものを手渡してやると、それを食べて機嫌を直す。』

 

女には、甘いものでも食わせとけ!(笑)

 

そんな彼が、堀木と知り合って、悪い遊びを覚える。

淫売婦によって女の修業をして、めっきりと腕をあげ、とうとう「女達者」の匂いをつきまとわせるようになってしまう。

 

そうなると、沢山の女達が寄ってくるようになった。

 隣の将軍の娘が、牛肉を買いにいくと女中が、煙草を買えば煙草屋の娘が、歌舞伎を見れば隣の席の女が、電車の中で……。いや、もううじゃうじゃとすごい。

 

もうね、歩く誘蛾灯(笑)

 

でも、そんな彼はこう。

 『世間から、あれは日陰者だと指差されているほどのひとと逢うと、自分は必ず、優しい心になるのです。そうして、その自分の「優しい心」は、自身でうっとりするくらいに優しい心でした。』

 

そして、堀木に貧乏くさいとけなされる女給ツネ子を愛しく思って、初めて微弱な恋心を感じ、女の言うままに心中して、生き残る。

めそめそと、貧乏くさいツネ子を思って泣きじゃくる。

哀れ。

 

それからも色々とあって、ずいぶんと年下の純真なヨシちゃんと知り合った場面。

 

酒に溺れている葉ちゃんを、注意するヨシちゃん。

「明日から一滴も飲まない」と宣言する葉ちゃん。

「きっと、やめる。やめたら、ヨシちゃん、僕のお嫁になってくれるかい?」

 馬鹿みたいな冗談だが、純真なヨシちゃんはこう答える。

 「モチよ」

 

しかし、案の定、次の日は昼間から酔っぱらって、ヨシちゃんの店の前にふらふら行く。

 「ヨシちゃん、ごめんね。飲んじゃった

 

「飲んじゃった(ハート)」じゃないだろう!(笑)

年下の女の子に、臆面もなく甘える葉ちゃん。

 「馬鹿野郎。キスしてやるぞ」

 

……もうね、どうしたらいいんだか、この男は(笑)

 

残念ながら、ヨシちゃんとの結婚は、ある事件で悲劇へと変わってしまうけど、それは置いておいて。

 美貌で、影があって、人を笑わせるのがうまくて、甘えん坊、お坊ちゃん育ちで、どうしようもないダメな人だけど、誰にでもいい人だと感じさせるものがある。

これはもてますよ!

と思います。

 

もてた方がいいのかどうかは知らんけど。

 

<以上 文責 ナンブ> 

※追記、関連して、勝手なセレクトでマンガを紹介します。

 

●「愛されたかった男の子と父親」に関して

 「訪問者」(萩尾望都)

 「メッシュ」(同じく)

 太宰大好きなFさんが大好きな萩尾望都。その作品。

 萩尾さんの多くの作品のテーマは、親子。

 「訪問者」は、「トーマの心臓」のわき役オスカーの話。ものすごい名作。こんなもの描いちゃうのか、恐ろしい。

 

 男の子と父親のテーマは、ずっと後に形を変えて「残酷な神が支配する」につながっていく。

あんまり恐ろしくて、当時一回読んで封印。

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